「赤い酋長の身代金」「この世は相身互い」(O.ヘンリー)

悪人といえども心は…

「赤い酋長の身代金」
「この世は相身互い」
(O.ヘンリー/小川高義訳)
(「O.ヘンリー傑作選Ⅰ」)新潮文庫

「赤い族長の身代金」
(O.ヘンリー/芹澤恵訳)
(「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」)
 光文社古典新訳文庫

サムとビルの二人組は
身代金誘拐を企てる。
地元の名士の息子・ジョニーに
ねらいを付け、
見事誘拐に成功、
郊外の洞窟に連れ去る。
だが、拉致されたジョニーは
悪人二人を相手に
インディアンごっこを始める…。
「赤い酋長の身代金」

ある家に侵入した盗賊は、
目を覚ました家主の男に
「手を上げろ」と命令する。
右手を高々と挙げた男に、
盗賊は「左手もだ」と要求するが、
男の返答は
「こっちの手は上がらん。
肩にリュウマチがある」。
実は盗賊も…。
「この世は相身互い」

この間まで
サキの短篇を味わっていました。
そこで読み返したくなったのが
O.ヘンリーです。
サキは最後のオチに毒がありますが、
O.ヘンリーは無毒で
爽やかな作品ばかりです。
「賢者の贈りもの」のような
人情物も大好きですが、
この2編のような「立場の逆転」ものも
気に入っています。

「赤い酋長」では、
悪党二人が10歳の子どもジョニーに
きりきり舞いさせられます。
石をぶつけられたり、脛を蹴られたり、
ナイフで頭の皮を
剥がされそうになったり。
ジョニーは誘拐されたことに
まったく動じていないのです。
何とか身代金要求まで
こぎ着けるのですが、
それに対応するジョニーの父親も
なかなかの人物です。
立場は見事に逆転します。
結末はぜひ読んでみてください。

「相身互い」では、
あっという間に盗賊と家主は
親しくなります。
実は盗賊もリュウマチを
患っていたのです。
「ガラガラヘビの油ってのを試したか?」
「チセラム錠ってのもあるな」
「ブリッカースタッフ造血剤は?」
と、
どんどんマニアックな方向へと
会話が弾んでいきます。
しまいにはすっかり意気投合します。

「赤い酋長」では
誘拐犯が間抜けな小市民へと成り下がり、
「相身互い」では
泥棒が親友へと変わっています。
この2編を読む限り、
悪人といえども心は普通の人間と
たいした変わらないのかも知れないと
思えるから不思議です。

世の中を見渡せば、
ライバルの飲み物に
禁止薬物を混入させたり、
知人の加熱式煙草に
水銀を注入したりと、
こんなところにもあんなところにも
悪人ばかりがいるような
錯覚を覚えます。
そんな世の中だからこそ、
O.ヘンリーの短編小説は
長く愛され続けるのかも知れません。

O.ヘンリーの純度100%のユーモア、
中学生高校生はもちろんのこと、
ストレスをため込んでいる
大人の皆さんにもお薦めします。

(2019.6.14)

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